【前回の記事を読む】「はい、あーん」と言われて「あー」と口を開けてしまった。恐れられた大男なのに、彼には“あーん”…「敵わんな」
第一章 いずれあやめかかきつばた
二
「うむ」
石動、ようやく太平の話を真剣に聞く気になった。
団子が解けるに従って浮子がゆっくりと姿を見せ、最後には水面に横となる。
石動は、浮子は水面に立っているもの、そう思っていた。最初に芋をつけたら浮子が沈んだ。それで芋をどんどん小さくしていったのだ。
「同じ場所ですよ。同じ場所じゃないとお魚が迷っちゃいます」
浮子が横になれば、再び団子を付けて落とし込む。
「いつまでだ?」
「やだなあ。釣れるまでに決まってるじゃないですか」
「うむ」
聞くんじゃなかった。
石動は、今は桟橋の中ほどで竿を横に出している。もちろん下駄も脱いだ。浮子は柳の木陰、いつもならご隠居の浮子のある辺りに沈んでいる。
「あー、ちと少ない」
石動がすっかり慣れた手付きで団子を付けながら言う。割り子の中の金団が、後二、三個分となっていた。
「大丈夫です。もう一箱あります」
「うむ」 石動の顔が曇る。どうやらまだまだ続くようだ。太平の顔も曇っている。仕方ない、もう一つはおやつのつもりだったのだから。
太平の団子には酒粕が練り込んである。
酒は水に馴染むから、解けるごとに匂いを遠くに運んでくれるはずだ。そう確信したが確証はない。それで、試した。