集中力アップのための足し算・引き算
やがて就学相談の時期になった。
発達検査の判定は重度の自閉症で、支援学校が「適」と言われたが両親は彼を地域で生活ができるようにしたかった。言葉は出ており、二語文くらいであればオウム返しにならず、コミュニケーションが可能だった。しかし語彙がなかなか増えず、会話のキャッチボールとまではいかなかった。
彼が希望する支援学級の児童は会話ができる子が多く、会話力からはとても学習に取り組めるとは見られなかっただろうが、支援学級入学は許可された。
彼は発する言葉こそ不足していたものの、入学までにひらがなの読み書き、一桁の足し算・引き算はできるようになっていた。
嬉しい反面、お母さんの迷いは他にあった。登下校時に通学路で通常学級の子ども達に会う可能性があるし、途中には歩道橋もある。突き落としが心配だ。
しかし、息子の可能性を伸ばすため、登下校の見守りをしっかりやることにして、地元の小学校の支援学級入学を決意した。
重度自閉症児は足し算・引き算などできないように思われがちだが、教え方次第で結構できるようになる子も多くいる。中には足し算・引き算の概念もないのにパターンで教えて何になる?という人もいるが、集中力を高める効果もあるのだ。そして脳の他の部位も刺激してくれる。
自閉症の他の子の面談時にこんな話があった。中度の自閉症の娘を持つお母さんが入学後の面接で、彼女は足し算・引き算が暗算でできる、と学級担任に言ったそうだ。
しかし担任は機嫌を損ねたようで「五までの数の概念もまだ育っていないので計算は早いです」と即座に言った。心が折れ、言葉を飲み込んだ、と暗い顔でお母さんが言った。
お母さんは私に悔しそうに「先生、数の概念って何でしょう? 五個を数えて答えられるし、五個取って!と言えば五個渡してくれるのに……数字の分解と合成ができないとだめなんですか?」と言った。
私も言葉に詰まった。確かに自閉症児は言葉で言われると弱いのだ。
五は三といくつ?などと言われると、???となってしまう。
しかし、概念などと小難しいことを言わず作業能力アップのための集中力・注意力を養う有効な療育と考えればいいのだと私は思う。
彼が入学した地域の支援学級は言葉が出る軽度の子の割合が高かった。
彼はクラスでは知的には一番重度で、学級担任からは学習はできないものと思われていた。
次回更新は7月3日(金)、14時の予定です。
【イチオシ記事】月に3回、同僚とホテルへ行く習慣ができた。職場の飲み会の帰りにそういう流れになって、恋人はいたけど止められなかった。
【注目記事】その夜、彼女の中に入ったあとに僕は名前を呼んだ。小さな声で「嬉しい」と少し涙ぐんでいるようにも見えた...
ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp