【前回の記事を読む】癇癪を起こすたび、自分の手首の同じ場所を噛む末っ子…気づくと歯型の内側だけ、毛が濃くなっていて……

第一章 生命力を支える家族

電車内ではバンザイを!

早業(はやわざ)他害行為

療育中、癇癪を起こすことはたまにしかなかったが、やはり気になるのは机の上にある物を何でも口に入れることだった。

チビた消しゴム、折れた鉛筆の芯、消しゴムのカス、輪ゴムなどが、いつの間にか彼の口に入っている。輪ゴムなどは口を盛大に動かして出し入れするので、気付いたスタッフが「ぺっ!して」と声をかけると、彼は素直にすぐ口から出す。

しかし、消しゴムのカスなどは飲み込んでしまうこともあった。お母さんから正式には聞いていないが、自閉症に伴う異食症なのだろう。

お母さんの話では外で遊ばせていると、小石も結構食べてしまうということだ。

ある時などお家の便器の底に小石が何個も沈んでいた、と目を丸くして話してくれたことがあった。小石は水洗でも流れず底に沈んでいる。驚愕するお母さんの様子が目に浮かんだ。しかし、彼に腹痛の気配はなかったそうだ。

人を押す行為は油断できなかった。

歩道橋や階段の上で他の子とすれ違う時は要注意で、お母さんは目を離せなかった。別にけんかしている様子もないのに、電光石火の早業で隣の子を突き落とそうとする。

物や大人に対してはやらなかった。彼の突き落としは決まって自分と同じくらいか、それより小さい子に対してだった。

だからお母さんは小さい子どもとすれ違う機会をできるだけ作らないように配慮していた。