「……不良のハードル低すぎません?」
「でもそれ、ずいぶん昔から開けてるんだろ?」
「まぁ、いつどこで買ったかすら憶えてないくらいには昔ですけど」
「学生の時分からピアスなんて俺みたいな古い価値観のおっさんからしたら充分不良だよ」
葵は少し不服だった。ピアス程度で不良扱いなどされたくない。ただ、真面目な生徒やおとなしい子は少なくとも学生時代にピアスを開けることはほぼない。その事実を考慮するとさもありなんと思われた。
「いずれにせよ物を大事にするのはいいことだ。せっかく似合ってるんだし」
「課長に褒められるとなんだかくすぐったいです」
「たまには素直に受け取れ」
課長は目尻に笑い皺を作り、直後に何か思い出したように手を叩いた。
「あぁそうだ。言い忘れてたんだが、若菜さんが暮らしていたアパートはここからそう遠くない場所だ。今は空き地になってるけど、機会があれば一度行ってみなさい。キミにとっても悪くない経験になるはずだ」
「悪くない経験?」
アパートの跡地はすぐに見つかった。そこは課長が言っていた通り空き地になっていて、黄色と黒のトラテープが形ばかりではあるが侵入禁止区域であることを表している。十年ものあいだ、新たなアパートが建つことも、駐車場にもコンビニにもならずに。
ぼうっと突っ立っていても仕方がないため、葵はバッグから顔を覗かせている菊の花を手に取った。事前に花屋で購入しておいた供花だ。それを空地の目立たない隅っこのほうにそっと供え、しゃがんで手を合わせる。確かにここには良三たちが暮らしていた。
次回更新は7月4日(土)、11時の予定です。
【イチオシ記事】夫の不倫現場に遭遇し、別れを切り出した夜…。「やめて!」 夫は人が変わったように無理やりキスをし、パジャマを脱がしてきて…
【注目記事】「いじわる…しないで下さい」…背中のフックを外され、左右とも指でなぞられた。口に含まれ舌で転がされると声が出てしまい…
ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp