乳児死亡率日本一 ―新医療システム導入で大逆転―

今春までお世話になっていた香川小児病院の救急外来の数は小児としてはおそらく日本一だ。年間一万数千人。一日に計算すると三十人以上になる。

もちろん夕方五時から朝九時までの急患数。全体の入院数が10個病棟400人とこれまた小児単独ではダントツの日本一である。

二十三年前、在任の内科医に加え、小児外科医三人とわれわれ小児科医三人が赴任してまもなく、夜間救急外来を開始した。小児ではどうしても不可欠と考えたから。その年まで香川県は乳児死亡率が全国最悪だった。

病棟には今よりも多い470人の慢性疾患を中心とする重症患者があふれていた。翌年にはF先生の赴任を機に未熟児新生児医療が本格的に始まり、今度は一歩進んで全国に先駆けてドクターズカー(設備を備えた救急車で医師とナースが地域病院まで患者を迎えに行く)制度を開始した。

香川県の乳児死亡率はまたたく間に低下しわずか四年後に一位から四十七位、すなわち全国一子どもの死なない県になった。

この方式が全国に広がりあっという間に日本はスウェーデンなどを抜き世界一となった。そのウエーブの始まりはこの香川県の小さな町の小児病院であった。

それから二十年、今も愛媛、徳島、高知まで重症患者を迎えにゆく。寸時の猶予も許されない患者を救急車の中で治療しながら運ぶ。一晩に三回のお呼びが掛かることもある。それも讃岐津田、愛媛西条、徳島半田という具合である。運転手も大変である。

一度重篤患者がくれば、X線技師、検査技師も総動員、CT、MRI、人工呼吸器など高度な医療が緊張の中で進められる。ときに外科手術も必要となる。全員使命感にあふれている。

その間にも一般の急患が病院に押しかける。発熱、けいれん、おう吐、腹痛、下痢、便秘、ぜんそく発作、みんな心配でやってくる。子どもは病状変化が激しく不安になってどんどん押し寄せる。待てない。ともかく何を置いても早く診てほしい。

ただその一万数千人の約95%が明日まで様子を見ても大丈夫な病気である。しかしこれは結果論である。5%の重い病気かどうかは診てみないと分からない。

雑多な症状を一手に引き受ける小児科医は香川の、日本の、医療を支える高潔な志で頑張る。ただ朝5時に起こされて「水ぼうそうです」というと「やっぱりそうですか、ありがとうございました、最近かかった兄の薬がまだあります」なんていわれるとその高潔な人格がわずかだが揺らぐ。

 

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