兄妹のきずな
お母さんの心労
あるお母さんが療育相談に来た。
面談は療育希望の子ども同伴が前提なのだが、このお母さんは子どもを連れずに一人でやって来た。
面談室とは名ばかりで、そのままの幼児教室にお母さんを案内し、いつものように園児机を挟んで対面して座り面談を始めた。
お母さんは、息子が今通っている市の障がい児専門の通園施設のママ友から話を聞いて、是非通わせたいと思って来たとのこと。
息子は言葉がまだ出ていない重度の自閉症で、他所ではどこも療育を引き受けてもらえないので……とお母さんは暗い顔で言った。
私は申込書を見ながら療育希望をしている長男の生育の過程について聞いた。
初めての子どもで何となく育てにくかったが、そういうものだと思っていたし、一歳児健診の時は何も言われなかったと言う。ただ体の発育は普通だったが、二歳を過ぎても言葉が全く出なかった。
喃語(なんご)さえ出なかった。今も出ていない。名前を呼んでも振り向かない。笑顔で話しかけても笑い返してくれない。それは今も同じ状態だと語った。
彼を三歳児入園させるために発達検査を受けた際に、重度自閉症と言われた。
「言葉が出ていませんね」と医師は普通に言った。そんなことは言われなくとも分かっている。
だからどういう治療方法があるのか聞きたいのに……と、その時だけ怒気を含んだ声でお母さんは言った。
やがて息子は通園施設に通うようになった。しかし、言葉は依然として出てこない。
取りつく島がないほど息子は自分の世界が強い。目線が合わないので簡単な動作模倣にも意識が向いてこない。
沈んだ声には抑揚がなく、顔の表情も動かさずに話すお母さんには希望の希の字もないようだった。