「だって、部署離れたほうが水瀬さんはやりやすいでしょ? 仕事とプライベートをそんなにうまく分けられない、って言ってたし」

「そう言われるとなんか、私が要領悪いみたいじゃない?」

「何にでも全力なんだなーって思ってました。俺はそれが悪いことだとも思わないですし」

「そう?」

「はい。そういう水瀬さんとこの先があるなら、別の部署にいたほうがいいかなーって思って」

「それって、どういう意味?」

「さあ。俺は年齢も立場も、人を好きになるなら関係ないってことですかね」

明らかにはしないけれど、礼の表情は少し熱を帯びている。その目で見つめられると、千春の頬も熱を持つのがわかった。

(なにこのくすぐったい感じ……)

そう思えど、嫌ではない。むしろ、どこか期待に胸が甘くうずく。グラスのお酒を煽りながら、隣の存在が気になって仕方がなかった。

 

そして迎えた土曜日。昼頃に家を出てモネ展へ行き、ディナーを食べたあと。笹川が予約してくれたシティホテルに向かう。

「旅行でもないのにこういうホテルに泊まるの、初めてです」

「実は僕もです」

ホテルの高層階にある部屋に入ると、大きく切り取られた窓から夕焼け色に染まった街並みが見えた。

「わ……綺麗」

「ちょうどいい時間帯に入ったかもしれませんね」

2人並んで窓の前に立ち、その景色を眺める。笹川がくるみの手を取って指を絡めた。

「笹川さんのおうちは、どの辺りでしょう?」

「うーん、東京タワーがあそこなので……あの辺りだと思います」

笹川が指差す方向を見つめる。それでも、そこがどこなのか、ましてや自分が今住んでいる家の近くなのすらよくわからない。

「なるほど……って言っても、私土地勘がないのであんまりわかりませんでした」