【前回の記事を読む】髪を優しく撫でられ、抱き寄せられた。彼の匂いに包まれながら頷くと、口づけをされて…触れられたところから愛しさが溢れた。

訳アリな私でも、愛してくれますか

「先にお風呂入りますか?」

「はい。緊張しすぎて、心臓が破れそうで……一度落ち着く時間をください」

「わかりました。ではお先にどうぞ」

笹川に礼を言ってシャワールームへと向かう。シャワーを終えて髪を乾かしたあと、改めて自分の身体を見つめた。

鏡に向かい合うと、どうしても自分の左胸に目がいってしまう。

(本当にこれを、見せていいの……?)

手術でなくなった胸は、こうしてみるとあまりにも虚しい。見慣れたと思っていたはずなのに、こうして見ていつも鏡で直視することを避けてきたのだということを実感してしまう。

大好きな人と触れてみたいと思う。それでもずっと、この左胸がくるみの心を縛り付けてきた。今もなお、その呪縛から逃れられていないどころか自分の身体を直視すら出来ない。

(やっぱり、私には無理だったのかも知れない)

くるみはホテルに置いてあったバスローブを羽織り、バスルームを出た。すると顔を上げた笹川が、驚いたように顔色を変えた。

「何かありましたか?」

「すみません、笹川さん。やっぱり、できないかもしれません」

言いながら、ぽろぽろと涙が出てくる。こうしてシティホテルを予約してくれた笹川に申し訳無さが募る。

「本当に、ごめんなさい」

「謝らないでください。くるみさんは何も悪くありません」

優しく抱き寄せられ、背中をぽんぽんと撫でてくれる。

「今日はやめておきましょう。僕は何よりもくるみさんの気持ちを大事にしたいのです」

「せっかく色々準備してくれたのに──」

「くるみさん」

くるみがネガティブな方向に考えるのをとめようと、笹川がわざと言葉を遮ったのがわかった。

「僕はあなたとそういうことがしたくて付き合ったわけではありません。あなたが好きだから付き合ってほしいと言ったんです」

「笹川さん……」

「くるみさんがいてくれるだけでいいんです。あなたの価値は、そんなものでは決まらない。僕はどんなくるみさんも、愛しています」

こぼれた涙を拭ってくれる。笹川と出会ってから何度泣き顔を見られただろう。それでもいつも、両手を広げて抱きしめ、涙を拭ってくれる笹川に救われてきた。

その日は寄り添い、2人で手をつないで眠りについた。この人と一緒にいればいつかはこんな自分のことも愛せるようになる気がする、そう心のなかで感じながら。

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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