訳アリな私でも、愛してくれますか
女性は生きていく時、恋をする時、自分の女性的魅力、年齢、容姿という3つの条件を気にする。それは、令和になった今も、多くの場合は変わらない。なぜなら、周囲の人だけではなく、当事者たちの意識もまた、変えられないからだ。
自分の中にこびりつく先入観や偏見と戦って傷つかないなんてことはない。たとえその意識を変えたいと願っても、女性的魅力がない自分、年齢が行き過ぎた自分、容姿が優れない自分を認めるという難関が待っている。
認められたら簡単だが、まずは白旗を上げなくてはならない。だったら、そこから逃げるほうが早い。楽で、目を背けながらも生きていけてしまうから怖い。
「いつか私も、自分のことを愛せたら」
今日もまた、彼女たちはそう願いながら生きていく。自分の偏見と戦いながら。
──大学生の時は、まだ人を信じるということが出来ていたのだろうと思う。自分が愛する人は、自分を受け入れてくれるかもしれない、こんな自分すら愛してくれるかもしれないという、ある意味うぬぼれに近い思いを抱いていたのだろう。
水瀬くるみは、大学の構内に足を踏み入れた途端、聞こえてきた声に耳を澄ませた。昨日まではこの声を聞いただけで胸がときめき、今すぐに走り出して彼に声をかけたい気分だった。しかし、今日は違う。
(あ、大輝君だ……昨日のこと、どう思ってるかな)
嫌な思いをさせたかもしれない、と思う。しかし、今思えばそう思ってしまうのも、実際は彼が受け止めてくれただろうという大きな過信があって、その上にあぐらをかいたまま、彼への遠慮があってのことだろう。
くるみは彼の反応を見るのがやや怖くて、壁一枚隔てたその教室に足を踏み入れられない。すると、彼とその友人2人の会話が聞こえてきた。