【前回の記事を読む】「彼女と昨日ヤろうとしたんだよ。病気で片方の、左胸? がないらしくて。きっつ……」漏れ出てくる嗚咽をこらえるしかなかった

訳アリな私でも、愛してくれますか

「最近はどう? 仕事」

「うーん、別に変わりはないよ。可もなく不可もなく、って感じ」

「そう。もうくるみも、28? 29歳だっけ?」

「29歳」

「その仕事、ずっと続けるの?」

「……正直、わかんない」

「なんで? あんた昔から絵を描くのとか好きだったでしょ? 私はてっきりそっちがやりたいんだと思ってたけど」

「……けど、もう今さら遅くない? 他の人はデザインを大学で学んだり、勉強したりしてデザイナーやってるのにさ。だからもうそっちはいいの。諦めた」

「え~、もったいない。私の会社には社会人になってから独学で勉強して一人前になったっていうデザイナーの人いるけどね」

「もういいんだって。ねぇ、それより営業って、お姉ちゃんくらいの歳になっても続けられるもの?」

「失礼ね。38歳になっても、営業やってる人いるよ? まぁ、女性は多くないけど」

姉の千春とは9歳差だ。年が離れたせいで、姉にとっても余計に可愛がりたくなる存在なのだろう。

くるみは中途で入った小さな広告代理店で営業職をしている。営業部はすべてで5課まであり、くるみは2課に所属している。

入社以来、それほど大きな成果を上げたわけでもないが、自分の顧客には継続して発注をもらい続けている。もっと大きな成果を出さなければ、とも思うが会社からもいよいよそういう圧はなくなった。

プレッシャーもなく、日々の地道な営業の繰り返しである。悪く言うと、会社に飼いならされている。

「もしチャレンジしたいなら、もうそろそろタイムリミットかもよ? 来年30になるわけでしょ。そしたら転職だって大変になるだろうし。もう少しちゃんと考えたら?」