これは、千春へのポーズである。千春からしたら、くるみは自分よりも若いし可能性があるのに何もしないのはもったいないと感じているのだろう。それでも、その圧を掛けられるのは辛い。
くるみはなにか違う話題を探した。
「あ、そうだ。それよりさ」
「うん?」
「……会社で、ちょっとだけ気になる先輩が出来た……かも」
「ええ? 本当!?」
千春の気をそらしたくて、言うつもりもなかったささやかな恋の芽について口から出てしまった。
「昔からあんたはそっち方面、興味なさそうだったからさ。その大学の彼のことがあってからなおさら。心配してたのよ」
「心配って、別にそこまでのものじゃないから」
「いいのいいの。私みたいに、1人で生きてくって決めてないなら、どんどん恋愛しなさい」
「……別に、思いを伝えるつもりはないの。見てるだけ」
「ええ!? それでいいの?」
「いいの。また傷つくのが嫌だから、恋はもうしない」
「もったいないよ」
「いいんだって。……でも、だからあんな夢見たのかなぁ」
次回更新は7月3日(木)、11時の予定です。
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