【前回の記事を読む】恋人になったら、お互いの身体を見ることになる。その時に失望されないように…彼に打ち明けた。胸が片方無いことを。
訳アリな私でも、愛してくれますか
「えっ、ごめん、私なんか突っ込んじゃいけないところまで聞いちゃった……?」
「いや……むしろ、ここまで聞いたなら聞いてくださいよ」
礼はそう言ってテーブルの上で手を組んだ。
「俺、昔から祖父が大好きだったんですよ。仲良かったと思うし、俺もものすごくなついてました。みかんの皮を剥いてもらったりとか、いつも一緒に散歩に行ったりとか。ずっとそういう日々が続くもんだと思ってたんですけど、実際はそんなわけないですよね。
高校の頃にじいちゃんが早期認知症になったんです。大腸がんもあったんで、それほど長生きはできないけど、って医者にも宣告されて」
「それで……おじいさんを撮るために?」
「……そんないい話じゃないんです」
自嘲するような礼の表情に、胸がきゅっと痛くなる。
「俺は、認知症のじいちゃんを受け止められなかったんです。だって、あんなに一緒に散歩したのに、俺の顔を見て『どちら様ですか』って言うんですよ。高校生だったから、俺だってある程度歳をとったら認知症になることもあるってのは理解してたんですけど、さすがに辛くて。
昔じいちゃんが愛媛に住んでたこととか、昔はこうだったって話はどんどん出てくるんです。でも、俺の名前は出てこない。そんなじいちゃんを前にして、以前と変わらず話なんて出来ねーなって思ったんですよね。
だけど、じいちゃんと会える回数ももう少ないっていうこともわかってて。だから……記録しようと思ったんです、カメラで」
「そう……」
「写真だけだったら、認知症で俺のことを忘れていたとしても、そこに映るじいちゃんは昔と変わらないじゃないですか。ばあちゃんに俺が撮った写真を手渡してじいちゃんに見せてもらってたんですけど、毎回『いい写真だ』って褒めてくれてたみたいです。俺の写真もいくつか見せてもらったんですけど、やっぱダメでした」
(彼が他人と線引きしたがるのは、そういうところが原因なのかな。深入りして傷つくことが、怖いのかもしれない)
「最低ですよね、俺。今は……天国に行ったら、おじいちゃんに謝りたいって思ってます」
「最低なんかじゃないよ。それだけおじいちゃんのことが好きだったんだよね」
「なんでこんな話したんだろ。すみません、なんか」
そう謝ってくる礼を見て、胸がなんだか痛くなる。普段のさばさばとした礼とは少し違う一面を知り、少し距離が近づいた気がした。
その日の帰りも、礼はタクシーまで送ってくれる。
「今日はすみませんでした。俺の話ばっかり聞いてもらっちゃって。次はもっと、楽しい話をしましょう」
「私は今日みたいな話も好きだよ。話してくれてありがとう」
「いや、礼を言うのはこっちですから」
「次、私も楽しい話題、用意しておくね」
タクシーに乗って1人になると、少し礼が恋しい気持ちになる。
(ひと回りも下の子に、何考えてるの私……)
浮かれた気持ちを抑えて、夜の街並みに目を向けた。