笹川との展覧会はしごデートを終えて数日後の金曜日。

先日くるみが提案書を出した大手のクライアントと引き換えに、同い年で同じ課に属する篠田から引き継いだクライアントとの初顔合わせがあった。

(こんなの、気乗りしないな)

一応準備はしつつも、自分の気持ちが前向きにならないのがわかる。

(でも、これが終わったら帰れるし、仕事だし、お客さんは何も悪くないもんね……)

夕方のミーティング、これが終われば土日だ。そう思って重い腰を上げ、会議室へと移動する。一応引き継ぎ後、初の顔合わせのため篠田と一緒に担当していた課長も同席する予定だ。

「水瀬さん、お客さん来たって」

「あ、はい」

受付からの内線を受けた課長に呼ばれ、一緒に会議室へ向かう。ドアを開けて中に入ると──。

「あ、お世話になっております~」

(こんなことってある……?)

目の前には、大学時代の元カレである大輝の姿があった。それを認識した途端、心臓がばくばくと大きな音を立てて脈打つ。

指先が冷え、怒りとも恐怖とも思える感情がくるみの身体を支配する。あのときに受けた心の傷は、まだ完全に癒えていないのだとすぐにわかってしまった。

(とにかく、今は普通にしなきゃ……)

大輝と目が合わないように、そしてそれを周囲に気取られないようになんとか笑顔を保つ。

「新しい担当者って、くるみだったんですね」

「あ、水瀬と知り合いですか?」

「大学時代の友達なんですよ。な、くるみ」

「……うん、そうだね」

「それはいいですね、お互い気心知れた間柄のほうが仕事もしやすいでしょう」

課長がうれしそうに場を取り持つ。これでなんの気兼ねもなくくるみに引き継げる、と内心喜んでいるのだろう。

大輝から受け取った名刺を見ると、その肩書はチーフ。会社の規模も向こうのほうが明らかに大きく、肩書もある。未だにくるみはこの小さな会社で平社員だということを、これほど悔しく思ったことはこれまでなかった。

(なんで私、こんな人に負けてるんだろ……)

あれだけ自分を苦しめた相手が、自分よりもいい社会的地位を得ている。そのことが、くるみの心をさらに苦しめた。

次回更新は2月26日(木)、11時の予定です。

 

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