「つーかさ、昨日マジきつかったわ」
「何が?」
「前さ、彼女できたって言ったじゃん。それがくるみって言うんだけど、そいつと昨日ヤろうとしたんだよ」
「おお、どうだった?」
「相手、処女?」
「知らね。多分そうだけど。そこじゃねーんだよ。とにかくさ、部屋で2人になるじゃん? いい感じの雰囲気作って、いよいよって時にさ。あいつ、なんか深刻な顔して話し出すの」
「何を?」
どくり、どくり、と心臓が大きな音を立てる。
「なんか、向こうが言うには病気で片方の、左胸?がないらしくて」
「ええー。マジ?」
「きっつ……」
「こっちはセックスしようって盛り上がってんのにさ、それ打ち明けられたんだぜ? 母親の顔思い出すよりきつかったわ」
くるみはなんとか漏れ出てくる嗚咽をこらえた。この場を去らなくては。この授業は受けられない。こんな状況で、彼のいる教室には入れない。
「つーか、そういう大事なことはもっと先に言ってくれないとさー。付き合う前に言っておいてほしくね? 訳あり商品だって告知しなきゃ詐欺だろ」
(もう、私には一生恋もできないや)
できるだけ顔を上げたくなくて、アスファルトと方向感覚だけを頼りに学校を出た。溢れ出した涙は、アスファルトに染みを作っていた──。