【前回の記事を読む】「死ね」「無能」「殺すぞ」と暴言を吐かれたと訴える部下… ここで妙な態度を取れば不審がられてしまう
訳アリな私でも、愛してくれますか
自分の知らないところで、岩下はかなり千春のことを嫌っていたのだろう。礼の言葉を聞いて心臓がずきりと痛んだ。
「女性のあなたにおもねるよりは、10歳以上下の俺に愚痴を聞いてもらうほうが自分のプライドが維持できるって考えたんだと思います。俺は色々岩下さんにヒアリングしてたし、同じ男として仲間だと思ってくれたんだと思いますけど」
「……そっか……やっぱり岩下君は、SNSの運用業務を吉川君に任せたこと、嫌だったのかな」
「だと思いますよ。SNSの運用を通して中の人としてある程度の地位が確立できたら、それを副業にしようと思ってたみたいですから」
「え……そうなの……?」
「はい。それも話してくれました。根本的に、会社の今の待遇に不満があったみたいです」
(そうだったんだ……確かに、そういうことは上司の私には言えないよね……)
とはいえ、それに対処できなかったのは自分のマネジメント不足だ。何も岩下のことを知ろうとしなかった自分に嫌気が差す。
(私は、どうしたらよかったんだろう)
ここから、どう対処するかは自分次第だ。千春は報告書に書きたいことを箇条書きにして、明日清書しようと思う。
「今やってるのが終わったら、帰ろうか」
できるかぎり明るく言った。その様子を、礼はじっと見つめている。
「俺、言わないほうがいいこと言いましたよね」
「ううん、いいの。彼も窮屈だっただろうから。彼に上司たる人間だって認められなかった私にも非があるでしょ?」
「ないですよ」
「どうして?」
「俺にとっては、尊敬できる上司だと思うからです」
不意に言われたその言葉が、優しく千春の心を包んでくれる。
「……尊敬とか、あったんだ、君に」
「俺のことなんだと思ってるんですか?」
そう言って笑う礼に、少し心が軽くなった気がした。