【前回の記事を読む】「男からしたら親しみやすいんじゃないの」「あ~…まあ私、ちょうどいいブスだからね」自分から言ったほうが傷は浅い
訳アリな私でも、愛してくれますか
かけ足で家までの道を行く。同じマンションに帰るのだから、秋斗にどこかで追いつくと思ったのだ。案の定、住宅街に入るあたりで秋斗の背中を見つけた。
理子はその背中に駆け寄り、声をかけた。
「豊橋!」
「……」
秋斗が振り向く。無表情で何も読み取れない。
「なんであんなこと言ったの!? 私は全然気にしてないのに……!」
「俺がああいうの聞いてるの嫌だったから」
「だからって、雰囲気悪くしちゃって……! 同期の子達だって、そっちだって嫌な思いして!」
「だったら、あんたが嫌な思いしていいのか?」
秋斗の鋭い視線が突き刺さる。一瞬それに怯みそうにもなるが、理子はそれを顔に出さないようにした。ここで相手に気取られたくなかった。
「他のやつが嫌な思いしないように、踏み台になるだけでいいのかよ? あんたは、自分の優先順位が低すぎる」
「そんなことない。他の人が嫌な思いをするのを私が見たくないだけなの」
「たとえそうだとしても、結局同じことだろ。他人を優先している事実は変わらない」
「……」
「嫌なことは嫌、ってちゃんと主張しろ。誰もが他人の気持ちに敏感なわけじゃない。察してくれるやつもいるかもしれないけど、そうじゃないやつのほうが圧倒的に多いんだよ。わざわざそういうヤツのために、あんたが踏み台になる必要はない。他のやつを持ち上げるためにあんたを貶めるやつなんか、ろくでもないだろ」
(……そう、なのかな)
確かに理子はこれまで、みんなに気を遣っていじられキャラをやってきた。最初はそれでみんなが楽しめればいいと思っていた。
しかし、いつしか自分からいじられにいきながら、ストレスを感じていたことも事実だ。ここまで来たら、もうこのキャラから抜け出せない。
「私が自分からいじられにいってるの。周りの人は何も悪くない」
「本当かよ。他人の容姿や特徴をいじるって、結構時代錯誤だと思うけど? なんであんたはそれでいいわけ? 感覚麻痺してたんじゃねーの」
(感覚、麻痺? そうなのかな……)
「俺、先に帰るから。もう夜遅いし、なんかあったら電話でもして」
「……大丈夫だよ。私はそういう目にあうタイプじゃないから」
理子のその言葉に不服そうな顔をしている秋斗を尻目に、理子は背を向けた。
(ちょっと、1人で散歩しよう)