「くるみ、起きて。そろそろご飯にしよう」

「ん……」

うっすらと目を開くと、目の前には歳の離れた千春の姿。そして遅れてやってきたのは、千春が作ってくれたのだろう美味しそうなホワイトソースの焼けた匂いだった。

「はぁ……最悪。また、あの夢見ちゃった……」

「ん?」

「大学の頃の初彼氏のやつ。思い出しただけでむかつく……」

「思い出すのやめなさい。ほら、ご飯食べよう? 今日はくるみの好きなグラタンだよ」

「ありがとう……手洗ってくる」

重たい身体を起こし、ソファから立ち上がる。廊下を歩いて洗面台の前に立つと、少しむくんだ自分の顔があった。そしてやや視線を下げると、女性らしいふくらみのある右側と、なにもない左側。

(……見慣れたとは言え、あの夢のあとにこれはきついな……)

くるみは勢いよく水を出してから顔を洗った。少し額にかいていた寝汗を流す。

「ねぇくるみ、今日お酒買ってきたんだけど、今飲む?」

「うん、飲む」

千春の問いかけに答えて、リビングルームに戻る。

地方に住んでいる母親は、定期的にくるみの様子を見に行くよう姉にお願いしているらしい。いつまで経っても、母の中ではくるみは幼い妹なのだ。

「今日は残業じゃなかったの?」

「午後休とったの。また来月からしばらく忙しくなりそうだから、その前に少しリフレッシュしようかなって」

「そう……」

食卓を囲み、グラタンを目の前にして手を合わせる。

「いただきます」

「いただきまーす」

千春は自分で買ってきたらしいロゼをグラスに注ぎ、くるみのグラスにも少し注いでくれた。それほどお酒に強くないことを知っているのだ。

次回更新は6月26日(木)、11時の予定です。

 

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