【前回の記事を読む】ベッド上の惨めな姿を見てショックを受けた…カフェで突然倒れた部下は、心停止の時間が長すぎた。脳への酸素供給が途絶え…

サイコ6――怪物の誕生

「もういい。意識を回復したところで、我々の計画を妨害するのにはどうせ間に合わん。那花ノートの解読は簡単だった。アルファベットのabcde……をnuwtaz ……とアトランダムに置き換えているだけだったからな。お陰で順調に青竜を成熟させられている」

「ノートには一体何が?」

鷹山は山口の顔を見て不気味な笑みを浮かべた。

「嫉妬だ」

「嫉妬……」

「旧約聖書の世界で、神が最も寵愛していた熾天使ルキフェルが何故堕天使サタンとなったか知っているか? キリストが生まれたことにより、神の愛はルキフェルからキリストへと移った。

ルキフェルはキリストに対して激しい嫉妬と憎悪を抱き、これを抹殺することにより神の愛を取り戻そうとしたのだ。それが地上における全ての悪の根源だ。

私に2人の子供がいたとしよう。この2人をどんなに虐待しても、互いを慈しみ、支え合うばかりで決して悪人にはならない。

だが一人を虐げ、もう一人は溺愛したとしよう。そこに嫉妬が生まれ、この二人は死ぬまでお互いを憎しみ合うのだ。

かつての戦争も同じだ。日本人全員が皆同じように塗炭の苦しみを味わっている時には、それでもお互いを信用し、助け合って生き抜いてきた。だが戦後、貧富の差が生じると同時に嫉妬が生まれ、貧しい者は富める者を羨み、富める者は貧しい者を蔑むようになった。

そして現代はどうなった? インターネットの普及により、人々の嫉妬はますます増幅して世界に溢れかえり、人間が引き起こす全ての悪事の根源となっている。どんなに善良な人間であっても、嫉妬の前では簡単に堕落し、罪に手を染める。

那花博士は大学での出世競争に敗れ、同僚に激しい嫉妬を覚え、彼らに復讐するために河原賽子を手に入れて、世界最高の栄誉を手に入れようとしたのだ。彼はノートの中で語っている。『およそ人間の根源的な力の源は全て嫉妬である』と。

雛鳥は同胞を押さえつけ、巣から蹴落とし、母親の愛情の権化であるところの餌を独占しようとする。生物は生き残るために、この世における自らの存在価値を証明するために嫉妬を必要とするのだ。

那花博士はそれに気づき、研究所で子供たちに超能力(フォルス)を激しく競わせ、互いに嫉妬し憎しみ合うように仕向けたのだ。それこそが河原賽子の力の源泉なのだ。

しかし、私の息子、青竜(チンロン)には互角に肩を並べられるほどのライバルがいない。彼にとって周囲の者はただのごみにしか見えない。今はまだ赤子のように極めて純粋な存在なのだ。

だから今、AIがネット上に溢れる嫉妬、憎悪、差別、貪欲、裏切り等、全ての悪意に溢れる情報を高エネルギーの電磁パルスに変換し、直接彼の体に叩き込んでいる。

彼は激しい痛みとともにそれらの悪意を自らの血肉のように吸収して成長するのだ。この世の全ての悪意を吸収し終わった時、真の怪物が出来上がる。あともう少しだ。どうだ、ぞくぞくするだろう」

老人の常軌を逸した笑顔に山口は睾丸が縮み上がるほどの恐怖と吐き気を覚え、すっかり蒼褪めていた。