「那花吉郎が逮捕された時、小百合さんは古葉月渚という少女を家に引き取ったと聞きましたが」

「はい。そうみたいですけど、私は一度も見かけたことがなかったんですよ。学校にも行かず、ずっと部屋に引き籠っていたみたいで。ああ、そうだ。庭掃除をしていて視線を感じて見上げたら2階の窓から女の子がこっちを見ていたんですよ。でもすぐにカーテンを閉じてしまいましたけど」

「麻利衣さんではなくて?」

「違うと思いますけど」

「麻利衣さんの様子はどうでした?」

「さあ。私はあの子と話をしたことはほとんどなかったから。でもあの子は毎日学校に行ってましたよ」

「その後、古葉月渚はどうなったんですか?」

「10年位前、旦那さんが刑務所で亡くなられたでしょ。その時、葬儀は身内だけでしますからとおっしゃったので、参列しなかったんですけど、何もなしじゃ、こっちが気が晴れないでしょ? だからしばらくしてから香典を包んで、ご自宅にお線香を上げに行ったんですよ。

その時、訊いてみたんです。月渚ちゃんはどうしてるのかって。そしたらもう家にはいないっておっしゃったんです。里親は解消して、児童養護施設に行ってもらったって。考えてみればその子も可哀そうなことをしたわよね」

「その児童養護施設、どこだか分かりますか?」

「えーと、どこだったかしら? ああ、そう。羅臼町の施設だったと思います。何もあんな辺鄙な所にわざわざやらなくてもって思ったのを覚えてますから」

「お母さん、何してるの?」

その時、家の奥から声が聞こえてきて、夫らしき男性が廊下を歩いて玄関に出てきた。

「勝手に出て行っちゃだめだって言ってるだろ」

「違うわよ。郵便局の人がお手紙を持ってきたのよ」

天野氏は鍬下に頭を下げた。

「すみません、最近物忘れがひどくなって、病院で認知症って言われたんですよ。変なこと言ったでしょ。気にしないでくださいね。何か御用ですか?」

「いえ、もういいんです」

鍬下は浮かぬ顔をしながら天野家を後にした。

次回更新は5月25日(月)、21時の予定です。

 

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