【前回の記事を読む】1911年、イタリア人清掃員に盗まれた『モナ・リザ』…その手口は、閉館時間まで掃除用具入れに隠れ…
サイコ5――テレポート怪盗
その夜、麻利衣は千晶に、夜間はバルになっているガラクシアに呼び出された。
「どうしたの? 話って何?」
「実はね」
千晶は答える前からにやけが止まらなかった。
「何よ?」
「彩斗と結婚することになりました!」
千晶は左の薬指の婚約指輪を麻利衣に見せながら言った。
「えっ! おめでとう!」
麻利衣は千晶の左手を取って、指輪にしげしげと見入った。
「よかったね、千晶。結婚式はいつだったっけ?」
「7月5日よ。彩斗の誕生日なの。それにね」
千晶は照れ笑いをした。
「実は……妊娠しちゃったの」
「ええっ! そうだったの? うわー、これ、二重におめでとうじゃない」
麻利衣は椅子の背にもたれかかって目を細めながら言った。
「ありがとう。3か月だって。親は親戚とか病院関係者とか呼んで盛大にやらなきゃって言うんだけど、私たちは身内と友人だけのささやかなウェディングパーティーにしようって決めてるの。もちろん麻利衣も来てくれるわよね」
「もちろんよ。わー、千晶のウェディングドレス姿、楽しみだなあ」
麻利衣はテーブルに両肘をついて握り拳の上に顎を乗せ、夢を見ているかのように目を細めた。
「じゃ、また連絡するね」
千晶がバルを去って行くのを見送ると、麻利衣は急に寂しくなった。
(唯一の友人は結婚して子供が生まれたら、私のことになどかまけてくれなくなるだろう。私はまた一人ぼっち。千晶みたいにいい人が現れる可能性もないし、幸せな結婚など夢のまた夢……)
そう思っていると、ふと鍬下の顔が脳裏に浮かんできたので、彼女はぶるぶると頭を振った。
(まさか、まさか、そんなことあり得ないし)