麻利衣がマンションに戻ると既に石原が訪れていた。
「それではご案内します」
石原の車で三人は江東区にあるルクスス社の保管庫に向かった。車を降りると石原は黒い外壁の窓のない建物に二人を案内した。
「この建物全体が当社の保管庫になります」
建物の周囲には大げさなくらいの人数の警備員が配備されていた。2人の屈強で鋭い目つきの警備員に挟まれたドアの前に立つと、石原はドアについているロックを顔認証・指紋認証・ICカードで解除してドアを開けた。
中に入るとそこは横に広く奥行きの狭い何もない空間であった。窓も空調も換気口すら見当たらず、正面のコンクリートの壁にもう一つドアがあるだけだった。背後のドアがロックされたのを確認すると、石原は次のドアに進んだ。
「金庫に辿り着くまで3つのドアがあります。次の2つは顔認証・指紋認証・静脈認証・ICカードに加え、暗証番号と鍵も必要です」
2つのドアを通り抜けると、最後の部屋に人の身長より金色で大きな円形の扉を持つ大型金庫が控えていた。扉の表面は黄金の巨大な車輪のような装置がついているが、鍵穴やパネルも見当たらず、どうやって開けるのか皆目見当がつかなかった。
「すごい。こんな大きくて豪華な金庫、初めて見ました。どうやって開けるんですか?」
麻利衣が訊ねた。
「残念ですが、それはお教えできません。もちろん、中の宝石も今お見せするわけにはいきません。お二人のことは信用しているからこそこちらにお連れしましたが、ミスターSに隙を見せるわけにはいきませんから。
それと、各部屋とこの金庫の中にも監視カメラが設置されています。お二人は顔認証登録しましたが、それ以外の人間が侵入したらAIが察知して、すぐに警報が鳴るシステムになっています」
三人は金庫室で立ったまま待ち続けた。三人の呼吸と汗で次第に部屋は蒸し暑くなっていた。麻利衣は腕時計を見た。
「今、午後11時50分です。あと10分で犯行予告の時間です」
「今のところ何の気配も感じない。だが、悠雅に対してはここの警備システムは何の役にも立たない。やつなら直接この金庫の中にテレポートできる。このままではダイヤはまんまと盗まれてしまうだろう。
私は今からこの建物の周囲に超能力(フォルス)で障壁(バリア)を形成する。そうすればこの建物の中を外の空間から完全に切り離すことができる。そうすれば常人はおろか、テレポートでも内部に侵入することはできないはずだ」
そう言うと賽子は目を静かに閉じて瞑想を始めた。麻利衣は思わず石原と目を見合わせたが、賽子が言うようなバリアが本当に形成されているのか二人には確認しようがなかった。
「今、0時ちょうどです」
麻利衣はミスターSが今にも現れるのではないかと緊張しながら身構えていたが、五分経っても何も起こる気配はなかった。緊迫した空気の中、三人は時が経つのを黙って待ち続けた。
「もう0時30分です。さすがにもう来ないんじゃないでしょうか?」
「確かに予告文には午前0時きっかりと書いてありましたから、30分以上遅れるとは思えません。もう諦めたのかもしれません」
ようやく目を開けた賽子が言った。
「念のためダイヤを確認してください」
「分かりました。お二人は後ろを向いていてください」
麻利衣と賽子が後ろを向いている間に石原はロックを解除して巨大な金庫の扉を開放した。
「もういいですよ。こちらにどうぞ」
三人が金庫の内部に入ると、石原は棚の上にあった黒い保管庫のロックを指紋認証と暗証番号と鍵で解除し、蓋を開けた。麻利衣が覗き込むと中には確かに大粒のピンク・ダイヤがクッションの上に鎮座していた。
「ピンク・ムーンは無事です」
石原はすぐに蓋を閉じ、三人は金庫の外へ出て扉を閉じた。
「お二人のお陰で無事、ピンク・ムーンを守ることができました。ありがとうございます。報酬の1000万はすぐに振り込ませていただきます。それと、もしよろしければ21日の宝石展示会にもいらしてください。通常は会員限定なのですが、お二人は特別にご招待しますので」
「えっ、いいんですか? そんなセレブしか入れない宝石展示会ってどんなものなのかすごく興味があります」
麻利衣が無邪気に喜んでいる間、賽子は怪訝な表情で石原を見つめていた。
次回更新は5月20日(水)、21時の予定です。
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