第八章 変化
夏が来た頃、母に大きな変化が見られるようになった。
ある日、私が仕事から帰ると、母がキッチンで立ち尽くしていた。
「お母さん、どうしたの?」
声をかけると、母は振り向いた。その表情は、どこか虚ろだった。
「恵美……」
「なに? 大丈夫?」
「夕ご飯……作ろうと思ったんだけど……」
母は困惑した表情で、冷蔵庫を見つめていた。
「何を作ろうとしてたの?」
「それが……思い出せないの」
母の声は震えていた。
「冷蔵庫を開けて、何か取り出そうとしたんだけど……何を取り出そうとしたのか、わからなくなって……」
私は母のそばに行った。
「大丈夫だよ。今日は私が作るから」
「でも……」
「いいの。座ってて」
母をダイニングの椅子に座らせ、私は夕食の準備を始めた。冷蔵庫の中を確認すると、豚肉と野菜があった。野菜炒めを作ることにした。
料理をしながら、私は母の様子を観察していた。母は虚ろな目で、テーブルの上を見つめていた。
「お母さん、お茶飲む?」
「……えっ?」
「お茶、飲む?」
「ああ、ええ、いただくわ」
私はお茶を淹れて、母の前に置いた。母は両手で湯呑みを包み込むように持った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私は母の向かいに座った。
「お母さん、今日は何してたの?」
「今日……?」
母は考え込んだ。
「テレビを見てたわ……たぶん……」
「何の番組?」
「それは……思い出せない……」
母の表情が曇った。私は話題を変えることにした。
「今日、会社で面白いことがあったんだよ」
「なに?」
「同僚の田中さんがね、プレゼン中にくしゃみが止まらなくなっちゃって」
「あら、大変」
「連続で十回くらいくしゃみしてて、会議室中が笑いをこらえるのに必死だったの」
母も少し笑った。その笑顔を見て、私は安心した。
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症状が進む母のために、ガスコンロをIHに交換した…玄関は二重ロックを設置し、1人で外出させないようにした。