店に戻ると、午後の営業に備えコーヒーを淹れ直した。
撮影にあたりいろいろな客の要望を聞くのだが、店の中がコーヒーの香りで満たされると、客もリラックスして話しやすくなるようだ。味の評判もおおむね良かった。
「カラン」
店のドアに仕掛けてあるチャイムの音がして客が入ってきた。ネクタイを締め、胸に社名の入ったユニフォームの上着を着た初老の男性だ。
「いらっしゃいませ」
「ああ、会社の創立記念で社員全員の記念撮影をしたいのですが、相談できますかね」
「わかりました。こちらへどうぞ」
亮介は、男性をソファーに案内した。
「ちょうどコーヒーを淹れたところですが、良かったらいかがですか」
「コーヒーですか。いいですね。良い匂いがするなと思っていたんですよ。いただいていいんですか?」
亮介は青い陶器のカップにコーヒーを注ぐと、男性の前に置いた。
「どうぞ。私はコーヒーが好きなんです。お客様のお口に合うかわかりませんが」
亮介はコーヒーを勧めながらソファーに座った。
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見積もり中、店内をキョロキョロと見回していた依頼主の男……見積書にさっと目を通すと“3回”無言でうなずき、こう言った……