【前回の記事を読む】商社で長らく活躍し、取締役だった男は70歳で勇退。だが社内報では雑に小さく扱われた――その直後、脳卒中で妻が倒れ……

2、毎年遺影を撮る老人

「斎藤さん。お考えはよくわかりました。

お話を伺ってやはり斎藤さんは立派な方だと感じました。斎藤さんの過去のお写真を見させていただいても、立派な方であったことがよくわかります。

でも、私は笑顔のお写真があってもいいのではないかと思います。

話は少し変わりますが、先日、とある会社の記念撮影を行いました。

創立30周年記念行事で、大会議室で全社員25名の集合写真を撮影しました。

最初は社長を中心に皆さん無表情で写真を撮ったのです。何枚か撮って撮影終了のときに、

どなたかが冗談をおっしゃったんですよ。私には意味がわかりませんでしたが、全員がどっと笑ったんです。その笑顔が素敵だったので、私は咄嗟にもう1枚撮影しました。

後でプリントして社長にお見せしたところ笑顔の写真をとても気に入られて、結局、澄ました顔の写真と笑顔の写真2枚を社員に配られました。

30周年の記念撮影ということで皆さん最初は緊張されていましたが、本当に笑顔が素敵な写真だったんです。ちょっと待ってください」

亮介は、カウンターにタブレットを取りに行った。ソファーに戻り、タブレットを操作して笑顔の写真を表示させた。

「これがその写真です」

写真は、3段に人が並んでいて、前列の真ん中に社長が座っている。

社長は少し振り返るような形で満面の笑顔を浮かべていた。社員たちも笑顔で社長のほうを見ていた。少し体を前かがみにして笑っている人もいる。

カメラを意識しない表情で、笑い声が聞こえてきそうな写真だった。