「いろいろな記念写真があると思いますが、この写真は、社長と社員の方たちの良好な関係を見事に映し出していると思いませんか」
「なるほど。良い写真だ」
「生意気なことを申し上げますが、斎藤さんはひょっとしたら過去にとらわれすぎていらっしゃるのではないですか。せっかく毎年写真を撮られるなら、大切なご家族と一緒の写真を撮られてもいいのではないかと思いますが」
孝蔵は、しばらく考え込んでいるようだ。無意識にもう1本煙草をくわえる。
しばらく火を付けずにくわえたまま考えていた。
「遺影の話をしたいわけではありませんが、斎藤さんの凛々しいお顔も然(さ)ることながら、笑顔で優しい写真をご家族も見ていたいのではないかと思います」
「なるほど。遺影を毎日見るのは会社の人間ではなく、家族ということか」
「そうです。もしよろしければ、ご家族の写真をお撮りしましょうか」
孝蔵は、顎を手でこすりながら考えている。
「そうだな。そんな写真が1枚あってもいいかもしれない」
「ぜひ、ご家族と相談されてみてください」
「わかった。そうしてみるよ」
その日は、昨年と同様、孝蔵の肖像写真を撮影した。
「3日で写真ができ上がると思います。本日はありがとうございました」
孝蔵はコートと帽子を受け取ると、きっちりと着込んで帰っていった。日は傾きかけている。