【前回の記事を読む】女子大生が小学生に混ざって野球!? 満塁ホームランを打ったが、少年たちの視線は彼女の背後に向けられていて…

ホームランとフォーマルハウト

下から投げた女の子のヒョロヒョロ球がノーバウンドでホームに届く。それをジャイアンツの少年がジャストミートすると、ボールは外野の頭を越えて、再び塀の向こうに消えていった。

一瞬時が止まり誰もが息をのむ。待つこと十数秒。果たして裏木戸が開いて、さっきのおじいさんが飛び出してきた。青ざめるジャイアンツの少年に逃げ惑う子供たち。その多くがわたしの陰に隠れた。

「またあんたか」

家主のおじいさんは呆れ顔でそう言った。極度の暑がりなのか、左手の団扇でしきりと顔を扇いでいる。くたびれたランニングシャツから、ほんのりと線香の匂いがした。

「子供たちがまたご迷惑をおかけしたみたいで、ごめんなさい」

保護者でもない自分が言うのも妙な話だけど、たった一人の大人なんだから仕方ない。それに打ったのが自分じゃないから、謝罪の言葉も軽やかに出てくる。ところが、さっきのように二言三言文句を言ったら引き上げるだろうとの読みは、あっさり外れた。

「ちと、ご足労願いましょうか」

彼は子供たちには目もくれず、わたしに目配せすると、裏木戸に向かって歩きだした。〈ご足労〉が〈ついて来い〉だというのはわかるが、そう言われる理由がわからない。ひょっとして高価な盆栽を壊したか。だとしたら弁償すべきは別にいる。窓ガラスくらいなら肩代わりしても構わないが、ウン万円の芸術品となれば話は変わってくる。

「はやく!」