【前回の記事を読む】「おばさん」が埋め合わせとして、子ども野球に参加! 「ちょっと寒いけど脱ぐことにするわ」ジャケットを脱ぎ、バットを握ると…

ホームランとフォーマルハウト

不運は、ホームベースを踏んだ直後にやってきた。グランドスラムを達成して帰還したヒロインを、子供らは称えようとしなかったのだ。彼らの目は例外なく、わたしの背後に向けられていた。

「ちょっと、おたくら!」

遠くから聞こえたのは、明らかに高齢男性の、それも憤ったような声音だった。振り返って目に入ったのは、やはり七十は過ぎていそうな、総白髪の痩せたおじいさんだった。

「このボールを打ったのは誰だ」

白いランニングシャツに生成りのステテコ、ドリフのコント番組でしか見たことのない絶滅危惧種的な格好である。この寒空だ、見た目だけでドン引きなのに、吠えているからなお恐ろしげだ。

子供たちがわたしの周りに集まってくる。この人だよ、と指をささないところは立派だと褒めてやりたいが、人の陰に隠れるあたりは、やはり大人を怖がるただのガキだな、と妙な納得をする。

「ここは公園じゃないし、他人様の土地だ。囲いがないからって、自由に使っていいわけじゃないぞ。――打ったのはあんたか」

ボールを掲げて詰問口調で問いかけてくる。ずっと向こうにある、外野フェンスだと信じ切っていた境界壁は、広場に隣接する民家の板塀だったらしい。裏木戸が開いたままになっているから、そこからやって来たということなのだろう。

「はい、そうです。あんなに飛ぶなんて思わなくて。なにか壊しちゃいました?」

子供たちが見ている、手本を示すつもりで正直に認めた。アメリカのジョージワシントンよろしく、言いわけも言い逃れもするつもりはない。