ホームランとフォーマルハウト
歩道に点在する水たまりを避けて歩いた。もう半月ほどで十月も終わるというのに、夏のような通り雨があったせいで、街には涼しくも湿気を含んだ風が吹いている。
灰色の雲の合間には青い空も見えるが、冬間近の、しかも午後四時の陽光では、アスファルトが乾くまでには相当の時間を要するはずで、このジメジメが長く続くのかと思うと、滅入っていた気分が余計に重く感じられてしまう。
街の風景と同様にわたしの胸の中にも、ジメついた空気が立ち込めている。不快の原因ははっきりしている。いまだ内定すら取れない就職活動のせいだ。
女性の就職難時代は終わったと誰もが言う。でもそれは男性の政治家や評論家が口にする験力の怪しい呪文のようなもので、女が依然不利であることに変わりはない。
人に誇れる成績じゃないのはわかっている。多くの時間をキャンパス外ライフに使い、ほどほどに学んできたツケが回ってきたと言われたらその通りだ。でも、学校の成績がすべてじゃないはずなのに、どの企業も人の内面など斟酌せずに、紙に書かれた情報だけで人を選別するやり方を変えようとしない。真面目に、一所懸命に、働きたい気持ちが形になって見せられたら、面接官たちの判断もきっと変わるはずなのに。
今日の面接は特にひどかった。テレビCMなどで見かける、誰もが知る清涼飲料水メーカーだった。総合職というだけで、どんな仕事かも知らずに応募した。志望動機はそのメーカーの特定保健用飲料水が好きだから、それだけ。
面談を待つ列の最後尾席に腰をかけて、名前を呼ばれるのに備えた。散々待たされて対峙した相手は、冷酷そうな女性面接官だった。
極度に緊張したせいで質問された内容は思い出せない。ただ一つはっきり憶えているのは、「空木(うつぎ)さん――この成績で、あなたは何を目指していたのですか」と問われたことだ。
顔から火が出るかと思った。左右に控える男性面接官のかすかな苦笑に気づいたわたしは、軽いパニックに襲われて何も答えられなかった。
くさくさした気分で、アスファルトを割る雑草を見ながらノロノロと歩く。足を止めてふいに仰いだ目の先、五階建てほどのビルの壁面に知った顔を見つけた。巨大な看板でほほ笑んでいるのは、今売り出し中の若手女優だ。手にあるのは黄色のラベルが貼られた円筒形の小瓶で、頭の上に製薬メーカーの名が大書されているから、胃腸薬か何かの宣伝だろう。