美人に生まれたというだけで、ほほ笑むだけで、それだけで幾ばくかの収入を得られる。不公平だと思う。十人並みの容姿で生まれたわたしの苦労を、看板の彼女は当然知らないだろう。それもまた許せないと思う。
筋違いの恨み節? そんなのはわかっている。努力を惜しむ甘ちゃん? 言われなくても知っている。でもそのように思わないと、精神の均衡が保てない。そんなぎりぎりの崖っぷちに、今のわたしは立っているのだ。
同じ市内だけど、立ち入ったことのない地域をあてどなく歩いた。今住んでいるあたりよりも緑が多い。ほんのちょっと離れただけで景色がこんなにも変わるとは思わなかった。
新築の洒落た家が並んでいるかと思えば、昭和を感じさせる味わい深い民家もある。建屋のない空間は主に畑で、幾筋も平行に盛り上がった土山から、野菜のものらしき幅広の葉っぱが行儀よく顔を出している。
畑でない場所もあるが、雑草が伸び放題だからきっと耕作放棄地なのだろう。世代が代わって用なしになった土地は、放置されるかあるいは切り売りされて、街の新たな顔になる高層マンションの用地にでもなるに違いない。ポツリポツリと遠見できる背の高い建物が、この推測が間違っていないのを裏づけているようだ。
もう少し歩こう、と思った。気持ちの整理などつけようもないが、体力を消耗すれば、鬱屈もいくらかは晴れそうな気がする。
知らない土地だけど不安はない。公共交通網はしっかりしているし方向感覚には自信があるから、どこまで歩いても迷う心配はない。不安があるとしたら、来週予定されている次の面接日が、今日のような一日になりはしないかということだけだ。
「おばさん、ピンチヒッターやってくんない?」
畑の畝を眺めていたら、後方から呼ばれた。いきなり声をかけてきたのは、小学校の高学年と思しき少年だった。身長は百四十センチくらいか。百五十五のわたしより背は低いが、がっしりとした体格をした勝気そうな子供だ。
陽は傾いたとはいえ、昼間の暑気を含んだ街風が汗ばむ肌に絡みつく、ただでさえ鬱陶しい気候である。これ以上不愉快な思いはしたくないから、気のないふりをして背中を向けて歩きだした。
「聞こえないの、おばさん」
絶対に認めたくないからもう一度無視した。
すると少年は、進路を塞ぐようにして前に回り込んだ。ツインテールの小さな女の子も一緒だ。
次回更新は5月1日(金)、11時の予定です。
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