これは本音だ。柔らかいボールだったせいで、実害が出なかったのは幸いだった。今の自分の経済状況では、現金の支出は極力抑えたい。手持ちの現金は一万円ほどしかなく、銀行の口座には、確かひとケタ万円しか残っていなかったはずだ。
この騒ぎで気落ちするかと思いきや、子供たちの野球熱が冷める気配はなかった。
「三点取ったんだ、チェンジでいいよな」
ジャイアンツの少年が言う。
「そうだ、そうだ」
「裏の攻撃で逆転するぞ」
負けているチームの少年たちが口々に叫ぶ。
ジャイアンツの少年がリーダー的存在なのだろう、三点取ったチームの面々は、不満を漏らすことなく守備に散っていった。プロに準ずるルールとやらはどこへ行ったのか、力の強い者が支配者になるのは、大人と変わらないようだ。
攻撃が始まった。トップバッターはジャイアンツの少年。彼がヒットを打って後続が出れば、無死満塁の大チャンスだ。再度巡ってきそうな大舞台に、助っ人の胸は高鳴る。
ホームランさえ打たなければいい、ヒットを積み重ねればいいんだと自分に言い聞かせて、わたしは自分の出番に備えた。さっきのがまぐれだったことは、すっかり忘れていた。
少年がバットをセンター方向に向けて雄叫びを上げる。気合は充分のようだ。相手ピッチャーは同年代と思しき女の子で、ピッチャーマウンドに見立てた地面のラインよりも、ずいぶん前に出たところで投球フォームに入った。体格差によるハンデは、ちゃんと考慮されているみたいだ。
次回更新は5月15日(金)、11時の予定です。
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