望遠鏡本体に当たる鏡筒は、女のわたしが一抱えするくらいの直径がある。長さは両手を広げた以上だ。そんな大物を支える架台は意外にもシンプルで、コンクリート製の直径五十センチほどの平らな円形基礎の上に、ほぼ同じ直径のターンテーブルが載る構造だ。
そのターンテーブルの両端に三角形の板状の支柱が垂直に立っていて、それらに挟まれるようにして鏡筒が据えられている。素人目の判断だが、ターンテーブルで左右に、三角支柱で上下の動きをさせる機構のようだ。
見た目も風格も、一般人が持てるような代物とは思えない。このおじいさん、いったい何者なのだろう。
「そこだよ」
おじいさんが指をさす。
指が示す先には、無造作に立てかけられた二本の金属バットがあった。一本は大人用、もう片方は子供用のようだ。
「これですか?」
「それじゃない。近づいて覗いてごらんなさい」
望遠鏡の、鏡筒の中を見てみろと言っているらしい。恐る恐る近づいて、筒の先から中を覗き込んでみる。
やはり天体望遠鏡だった。それも反射式だ。鏡筒の底の部分に凹面鏡がある。直径は四十センチ以上あるだろう。興味深そうに覗き込む間抜け面が、数倍にも拡大されてこっちを見ている。小心で、卑屈で、いろんなものから逃げてばかりしてきた女の顔だ。
「鏡の隅っこだよ」
そう言われて改めて観察してみる。曇りのない鏡面の、地面に近い方にくっきりと残っている。百八つの縫い目が刻まれた、野球ボールの痕跡である。
次回更新は5月22日(金)、11時の予定です。