催促されてようやく重い足を動かした。まさか取って食ったりはしないだろうが、一抹の不安はぬぐい切れない。これでもれっきとした独身の女なのだ。
心配そうな子供たちの顔に見送られて痩せた背中に続く。中には手を振っている子までいる。薄情なガキどもだ。
招じ入れられた庭は広かった。テニスコートとまではいかないが、子供がドッヂボールするくらいの広さはありそうだ。純日本風の庭は全体的に細長く、長辺の板塀に沿って名も知らない低木が植えられていて、それらの足もとには地を這うように下草が繁茂している。
今節流行のナチュラルガーデンっぽい眺めだけれど、意図してそうしているとは思えない。手入れが行き届かないままに、背の低い雑草が庭を覆い尽くした、そんなところだろう。
立ち止まって眺めていたら再度急かされたので、さらに先へと進む。裏木戸から、古民家カフェと見紛う重厚な母屋まで続く石畳を踏みながら、おじいさんのあとに続く。
足を止めたのは、和の庭には馴染まない、直線的で無機質な金属製の造作物の前だった。間近で見るのは初めてだけど、ひと目で天体望遠鏡だと知れた。それも、持ち運びなど人の手ではできそうにない、大型の機種だ。
望遠鏡の隣には将棋の駒の形をした小屋が建っていて、望遠鏡側の壁は観音扉になっている。開け放たれているから、がらんどうの室内がよく見える。小屋から望遠鏡の両サイドまで、鉄道のようなレールが二本敷かれているから、使わない時は小屋が動いて望遠鏡を収納する仕組みなのだろう。