【前回の記事を読む】認知症の母は、愛犬を玄関のドアノブにつないだことを忘れ、テレビに夢中になっていた。その間に愛犬の首には…

第一部 父

在宅医×訪問看護師×ヘルパー

十九時になると、うちの家族は食卓につく。僕が作った夕食を食べるためだ。

食材は父が近所のショッピングモールで吟味(ぎんみ)して、三日分まとめて買ってくる。父が食べたいものを食べてもらうのが一番いい。僕と母はそういう考えだ。

父はすごく痩(や)せた。三か月前に病院で処方された新しい抗がん剤を服用するようになり、食欲が明らかに落ちていた。

ステーキのような栄養のつくものを食べさせようとしても、抗がん剤の副作用で気持ちが悪く、胃が受けつけないという。

四年半前に肺がんになり、そのときは片肺の摘出手術を行ない、無事、がんは取りのぞかれた。

父もほっとして食事に気を配るようになり、毎日母と一緒に近所のスポーツセンターへ足繁く通い、プールでの水中ウォーキングで体力をつけることに余念がなかった。

が、昨年、またがんが見つかった。

最近の昼食は、お粥(かゆ)だけとかおにぎり一個とか、三枚入りのサンドイッチを一つぐらいしか摂とらなくなった。

夜はレトルトのお粥とおかずをちょっと。

朝から晩までリビングのテレビをつけて、ソファーに横になっている。