【前回記事を読む】クリスマスの銀座で、赤いコートの女性と視線が絡まった!目を一瞬離した隙にその女性は…
第1章 銀座に降ったクリスマス
夏人はホームに滑り込んで来たいつもと同じ銀座線に乗った。
銀座線に乗った夏人は入り口近くの席を見つけて座った。そして先ほどのことを考えているうちに眠りに落ちてしまった。しばらくして目が覚めた時には渋谷が終点のはずの銀座線がどこか知らない地上を走っていた。電車の外は霧のように細かい雨が降っている。周りの景色は鄙びた田舎にしか見えない。東京近郊とは思えない。
ここはどこだ? そう思って外を見ていた夏人は電車が停まった時に、会社で働いていた時の同僚が数人、電車に乗り込んできたことに気づいた。彼らとはあまり話をしたくなかったが、電車が空いていたこともあり、相手がすぐに夏人を見つけて近づいてきた。
「南川じゃないか。お前、会社辞めてからどうしていたんだよ。辞めてからもう20年くらい経ったよな」
親しげに話しかけてくる様子の川村は南川夏人が会社員時代に苦手にしていた同僚である。
もっとも人間関係が苦手な夏人にとって、気軽に話せる同僚は夕海だけだった。「まあ、それなりに生きてる」
「それなりにって、仕事は何やっているんだよ」
あまり答えたくなかった夏人だが、仕方なく答えた。
「頼まれたイラストを書く仕事だ」
会社を辞めて独立してから地道にやってきた甲斐があり、夏人は最近では他のバイトをしなくてもイラストとSNS上の広告作成だけで何とか生活できるくらいにはなっていた。
「お前には、やっぱり一人でする仕事の方が向いてるよ」夏人が何か言おうとすると、重ねて言われた。
「他の人とうまくやっていくの、苦手だっただろ」
そう言われてもどんな顔をすれば良いのか分からず困惑するだけだ。
「そういえば、入社した頃に同じ広報部にいた山本夕海、今年の2月に死んだの知ってるよな」
「えっ……知らなかった。一体どうして」