プロローグ
「ねえ、夏人(なつと)、この店の地下に何があるか知ってる?」
「地下があるようには見えないけど」
「それがちゃんと秘密の入り口があのカウンターの下にあるのよ」
「地下に何があるのかな?」
「地下ではロボットたちがT&Cのアクセサリーを作っているの」
「それは空想の話?」
「そうじゃなくて本当にいるのよ。その証拠にクリスマスの頃に何年かに1度、そのロボットが店の入り口に現れて、アクセサリーを作っているところが見られるの。今年はロボットが1階にいないから、地下でクリスマスのためのプレゼントを作るのが忙しいのよ、きっと」
「そうなんだ」夕海(ゆうみ)が夢想めいた話をするのは機嫌がいい時だ。そんな時、夏人は夕海の上機嫌を損なわないように話を合わせることにしていた。
「クリスマスのプレゼントと一緒にもっと大事なものも作っているのよ」
「もっと大事なものって?」
「それは教えられないよ。考えてみて」
「考えたら分かるのかな」
「どうかな、分かるかも知れないし、分からないかも知れない」
「そんなこと言わずに教えてほしいな」
「だめ、自分で考えてみてね」
遠い昔、夕海と交わした会話を夏人は繰り返し思い出す。あれは確か西暦が2001年を過ぎてから何回目かのクリスマスイブの銀座だった。この記憶は夏人の意識の中に繰り返される映像として残っている。
プロローグ2
寒い?
痛い?
息が苦しい?
意識が遠のく?
突然死?
俺が死ぬ時はどんな感じだろう?
誰かそばにいて悲しんでくれる人はいるだろうか?
俺はきっとひとりぼっち、人知れず消えていく。そんな死に方は寂しくて嫌だけれど仕方ない。きっとそんな感じで突然次の日からなくなってしまうのだ。
繰り返し夏人に訪れる深い孤独は、幸せそうに折り畳まれた過去〜そう20年前のクリスマスイブ〜の記憶に逃げ込んでいく。あの頃、夕海といる時だけは幸せで平穏な時間だった。
あれから20年の時が流れ、南川夏人は今年45歳になった。夏人が5年勤めた中堅の広告代理店を退社したのは、周りの人とうまく協力関係を築けないこと、一生懸命仕事をしていても周りの理解を得ることができず、いつも孤立してしまうことなどに疲れきってしまったからである。
それに加えて付き合っていた夕海が突然大阪に転勤することになったことも会社を辞める大きな契機となった。あることをきっかけに別れることになってしまった2人。
なぜ夕海が突然大阪に転勤してしまったのか、その頃の夏人には知る由もなかった。いずれにしても夏人にとって夕海のいない会社に勤務し続ける気持ちは希薄だった。夏人は広告代理店でイベントを企画する仕事が大好きだったし、仕事に自信もあった。
でも結局会社を辞め、イラストを描くことを中心とする広告会社をひとりで始めた。オフィスは自分のアパートだ。