第1章 銀座に降ったクリスマス

2025年、クリスマスイブ。夏人はクリスマス時期だけは普段立ち入ることが少ない銀座を訪れる。

銀座の街には人の流れが行き交っている。流れはデパート、専門店、レストラン、カフェに、出たり入ったりしながら様々なプレゼントを載せて、あるいはプレゼントを求めて、あちらこちらで交差しながら進んでいる。

一部はゆっくりと、一部は時間を競うように進んでいる。流れが集まる場所は人気のある店である。

そんな場所の一つ、T&Cも幸せそうな人の群れで賑わっている。幸せそうに見えても、多かれ少なかれ問題を抱えている人は多い。何とか折り合いをつけて、この幸せそうな流れに加わっている人もその時だけは自分も幸せだと感じるのかも知れない。

夏人はこの幸せそうに見える人の流れを見ているのが好きだ。店の中で縦横無尽に交錯する流れの中で彼だけが動かない。彼の人生がどこかで止まってしまったことを象徴するかのように、周りから1人だけ隔離されている。

しばらくして夏人は店内の円形のブースの向こうに同じように静止している点があることに気がついた。対角線上のその静止点は赤いコートにくるまった若い女性だ。

ブルーが基調のクリスマスの飾り付けの中心に入り込んだ真紅が夏人の目に眩しい。それまで流れをぼんやりと眺めていた夏人がその女性に気づいてからは、その部分に気を取られてしまい、少し落ち着かない気持ちになった。

世の中には同じようなことをする人がいるのだなと思いつつ、できるだけその停止点から目を逸らそうとした。でも1度失ってしまった平穏な心持ちはなかなか戻ってこない。

何度か目を逸らしてはまた赤い静止点に戻ってしまうことを繰り返した。何度目かに女性と視線が絡まった。視線が絡まったのはそれが最初ではなかったかも知れない。

でも次に視線を戻した時には対角線上のその赤い静止点は消えていた。慌てて赤いコートを捜したが見つからない。夢でも見たのだろうか? いや、そんなはずはない。

夏人は不思議な気持ちのまま、その日は帰宅することにして、人で賑わうT&Cをあとにした。普段より少し早足でしばらく歩いたところの階段を降り、銀座線のホームに出た。

先ほどの赤いコートに包まった女性を捜している自分に気がついた夏人は自嘲の笑いを浮かべながら独り言を呟く。

「俺は一体何をしているんだろう」

 

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