【前回の記事を読む】僕は孕ませた元カノのケアについて配慮しなかった。彼女と自分の両親、周囲の大人に怒られてもなお、自分を守る事を最優先した
第五章
前園さんは大学にいるんだろうか。大学にいないとしたら、どこにいるのだろうか。わからない。知らない。僕は桜明大学文学部三年生の前園明里のことしか知らない。
もっと、友達なら他の話をするべきだった。なにが好きなのか、趣味はなんなのか、どんなアルバイトをしているのか、好きな食べ物は? 好きな色は? 好きな動物は? 好きな季節は? 好きな服は? 好きな曲は? 好きな映画は?
そうやってもっと会話をして、心を通わせる必要があったのだ。担任の谷岡先生とも、サッカー部の志村とも、クラスメイトの早川や高木とも、両親とも……。そして、遥香とも。
もっと、妊娠がわかった遥香と関わろうとするべきだった。遥香が求めるものに目を伏せて、僕だけが遥香に求めた。遥香がそれに応えないのは当然だ。
どうして気づかなかったのだろう。ずっと僕は心を通わせたい人間だったはずなのに、どうして三年もかかってしまったのだろう。
電車に飛び乗り、大学を目指す。家から大学までは三十分程度かかる。はやる気持ちを抑えながら大学の最寄駅に着くのを待つ。こういうときは不思議と時間が長く感じるものだ。三十分以上かかったような気がしながらも、電車が大学の最寄駅にようやく到着する。
駅から大学までは徒歩五分程度だが、この距離も走った。とにかく少しでも早く前園さんに会って仲直りをしたい。これも彼女が言う、衝動で動いている状態なのだろうか。でも、これまでの自分とは違うとはっきりといえる。