【前回の記事を読む】外でおいしいものを食べた時、母はその味を再現しようとする。だが決まっていつも、黒い何かを作る母に太平は…

第一章 鯛のしゃくり釣り

「とてもおいしかったです」

しっかりと一杯を飲み干して、そう言ったところで意識が消えた。

百合の体が「くたん」と崩れて、落ちた湯呑み茶碗が転がっていく。

「あ、わ、わ」

太平には、何が起きたかも、どうしていいかも分からない。

「太平! 布団に運べ! わし、先生を呼んでくる」

庭先からお粂ばあさんが怒鳴っていた。

「ご無理はなさらんように」

そう言い置いて帰る医者と一緒に、お粂ばあさんも出ていった。

「竹庵、あんだけの事で見料取る気か」

「見料って、わし易者やないんやから」

どうやら診察代をねぎってくれているようだ。二人の声が遠ざかっていく。

「ごめんなさい、太平さん。少しはしゃぎ過ぎたようです」

太平と話したくて、台所に行って楽しく話した。どうやら、自分の元気の限界はその辺りだったらしい。

「あ、お布団はこのままで。もう少し庭を見ていたいんです」

布団を戻そうとする太平を百合が止めた。

「あっ、やぶからしです」

庭に目を向けた太平が声を上げる。

「やぶからしをご存知なんですか?」

「はい、やぶからしとへくそかずらは良く知ってます。あ、犬のふぐりもです」