太平、舟では手釣りだから、別に竿がなくても困らないのだが、つい釣雲の勢いに引きずられた。
「はい、竿が天っ辺です」
それで、釣雲の竿作りに付き合う事となった。
「いいか太平。てめぇみたく、日向(ひなた)ぼっこしながらのんびり育ったような竹は要(い)らねえ。厄介なところでひねて育った奴を探すんだ」
「はい。釣雲さんみたいな竹ですね」
「ん……まあ、そういうこった」
秋が近づけば、あちこちに出掛けては竹を探す事となった。
「太平。今過ぎたとこの右のやつだ。右だって言ってんだろが! てめぇ、喧嘩売ってんのか! あ、すまん。おめえから見て左だ。そう、そいつ」
戻って来れば髷(まげ)は蜘蛛の巣にまみれ、着物も体も切り傷だらけとなっている。もちろん、釣雲の着物にも髷にもほつれ一つない。竹を伐り取り、束ねて運ぶのも太平の仕事だ。
👉『花房藩釣り役 天下太平 五月の恋の吹きながし』連載記事一覧はこちら
【イチオシ記事】店を畳むという噂に足を運ぶと、「抱いて」と柔らかい体が絡んできて…
【注目記事】忌引きの理由は自殺だとは言えなかった…行方不明から1週間、父の体を発見した漁船は、父の故郷に近い地域の船だった。