和也くんと合流して校門を出ようとした時、他クラスの朝桐さんが颯斗くんを呼び止める出来事があった。
朝桐さんは上背があり、髪は今風のセンター分けで艶があった。そして言動が快活を極めていた。偏見から来るイメージではあるけれど、いわゆる美術部っぽさは欠片も持ち合わせていないように見えた。
「矢崎颯斗さんですよね? 入学式の時に見かけてまさかとは思ってたんですけど、やっぱりだ! 未来ヨコハマコンテストで金賞を取ってましたよね! 僕もあれ出てたんですけど、銀賞だったんです。悔しかったけど、批評家の人があの場で言ってた通りでした。矢崎さんの絵、見て鳥肌が立ちましたよ。
ヨコハマの未来で水上都市は思いつくとは思いますけど、あの画力。一目見て、逆立ちしたって敵わないと思いました。それからファンになったんです。あ、でもその後なんでぱったりどのコンテストにも顔を出さなくなったんです? 突如消えた天才って、僕の絵画教室の先生も嘆いてましたよ!
いや、まあいいや、矢崎さん! 一緒に美術部に入りませんか? 部長は三年の樺西さんって人なんですけど、とてもいい人ですし、部員は数人でアットホームな雰囲気です。さっき体験にも行ってきました。どうですか? 矢崎さんが入ったらみんな度肝抜かれると思います。絵をやる人には、かなりの有名人ですからね」
といった具合で、堰を切ったように長広舌を振るい、颯斗くんを褒めまくり、周りの私と和也くんは視界に映り込んでさえいないような直線的な視線を、颯斗くんに差し伸べていた。
次回更新は8月1日(金)、21時の予定です。