シラー

このままでいいなんて、思っていない。でも、何もする気にならない。

目的もわからず、当て所なく彷徨(さまよ)っている。そんな感覚。中学の卒業式を迎える朝も、それは変わらない。でも、抗う術がわからない。日常は、今日も汽笛を上げる。時間は、待ってくれない。

定刻に目覚め、寒気の立つほど整然とした室内を、気のない顔で見渡す。居丈高に何かを命令したそうな鉛筆とスケッチブックが、いつもと変わらず机上に横たわっている。

ドアの僅かな隙間から運ばれる味噌汁の匂いが鼻腔をくすぐり、軽くなった体を動かす。ゆっくりベッドから離れる。窓外を見れば花笑みの季節。背を向け、部屋を出た。

洗面所でしばらく呆然と立ち、鏡に映る生気の欠けた顔を直視する。無感情のまま洗顔して、無地のタオルに顔を押し付ける。締め付けの弱い蛇口から漏れ出る、切れの悪い水音が耳立つ。短く溜息を吐いて、僕は蛇口を締め直した。

椅子のクッションが磁力を帯びているかのように、意思を置き去りにしてリビングの椅子に座る。味噌汁の中の細切りにされた絹豆腐が、艶やかに白色を煌めかせている。僕の停滞した感情を、嘲笑っているのだろうか。

「颯斗、高校では何か部活をやるのかい?」

節榑(ふしくれ)立った手に付いた水滴を拭きながら、台所に立つ祖母が話しかけてきた。

「やらないよ。ばあちゃんもわかってるでしょ?」

少しの間が、室内に微かな緊張を生む。

「うん。わかっとる」

「あの絵も外していいんだからね」

「何を言うか。あれはばあちゃんの宝物だよ。あんたからもらったんだから、私のもん」