【前回の記事を読む】「褒めても何も出ませんよ! あ、ホースから水は出てるか。」「いきなり失礼千万キャノン砲打ってこないでよね!」暴走は止まらず…

エゾギク

僕たちがまだ返答に窮している間に、桜井先生は視線をこちらに向け、居住まいを正した。

「そうだ。二人は〝親花祭〟を知っているかな?」

親花祭は大安高校で毎年秋頃に開催される、文化祭のようなものだ。各教室や野外で生徒たちが自分たちのブースを作り、思い思いに内装を設える。

二日間開催され、最終日の暮色が空に描かれる頃、桜井先生の掛け声で校舎中の花々に設えられた電飾が燦然と輝き出す。そのイルミネーションイベントが特に人気らしい。 

親花祭の期間は校舎が一般開放されるため、毎年かなりの人数が来場するビッグイベントになっている。と、中村さんが前に教えてくれた。

「最終日に花のイルミネーションをやるお祭りですよね?」

「そうなんだ! 生徒のみんなもそれぞれ屋台とかを出して、本当に毎年盛り上がるイベントなんだよ」

「え! 屋台出るんですか? 颯斗くん、チョコバナナ食べようよ!」

あかりが大声を上げる。さっきまで冬眠していたのではないかと思うほどの、ボルテージの上げっぷりた。

「チョコバナナって、近所のお祭りじゃないんだから」

「ははは! 小花くんは面白いね。確かに矢崎くんの言う通り、チョコバナナは出ないかなあ。毎年カフェをやる子たちが多いかな。ちなみに先生たちは、今年はおにぎり屋台をやる予定みたいだよ」

「そうなんですか……」

あからさまに落胆し悲壮感を出すあかりにツッコミを入れたかったが、彼女にまた失礼発言認定をされても面倒なので、僕はグッと堪えた。

「それで、なんでその親花祭の話をしたんですか?」

「ああ、実はね矢崎くん。その祭りで君に頼みたいことがあるんだ」

「え! 颯斗くんすごっ! 副校長からものを頼まれるって、いつの間にそんな偉く……」 僕はあかりの話を制するために、大きな咳払いをした。少しお黙りなさいという気持ちが伝わったのか、彼女は不機嫌そうに頬を軽く膨らませる。

「頼みってなんですか?」

「うん、急な頼みで申し訳ないんだが、親花祭の時に飾る用の絵を、ぜひ君に描いてもらえないかと思ってね」

嫌な汗が滲む。