その生徒会長というのがバイオリンの件でF子にプライドを傷つけられた友達であったうえ、とりわけおしゃべりな少女だったものだから、バレたF子の大嘘はたちまち皆の知るところとなった。
―なーんだ、話が逆だったじゃないの。しつこく言い寄られて悩んでる、ですって? よくもしゃあしゃあとそんなウソがつけたもんだわね。自分が攻勢かけてたんじゃないの。
ずうずうしいにもほどがあるわ。卒業するころには評判がすっかり地に落ちてF子は誰からも相手にされなくなり、〝卑下自慢〟とか〝F子の絵そら事〟という言葉がやたら流行ったものだ。
代わりに、理緒子の人を見抜く力や隠れた人徳に人気が集まり、敵の目にまで彼女の後光が届き出したように見えたっけ。
ほかに、あさみがとりわけ感心したこともあった。それは高校卒業後一年以上もたってから、したがって兄へ書き送ることもなくなってから判明したことだ。
あたしの万年筆知らない? どっか行っちゃったわ。腕時計がなくなっちゃったのよ。
たしかここに置いといたと思ったんだけど――高一のころ、理緒子は一度ならず二度も三度もそんなことを口走った。なんて不注意な、よく物を失くす人だろう、とあさみは呆れていた。
次回更新は8月1日(金)、22時の予定です。