理緒子の醜いやっかみだとあさみは考えていたのだが、やがてF子がどんな人間かわかるにつれ、誤解していたことを悟り始めた。
『びっくりだったわ、お兄ちゃま。F子さんて、「私は本当に音痴なの。音楽なんてまったくダメ」なんてさんざん触れ回ったあげく、三年生の送別会の華やかな舞台で、自分のバイオリンの腕前を電撃的に披露したのよ。
そうやってみんなをアッと驚かせたの。狙いどおり効果的にね。「まったくダメ」なんて言わないで「あまり上手じゃないの」ぐらいに言っておけば、バイオリンを習い始めた友達のプライドだって、そう傷つけることもなかったでしょうに』
その後卒業の年が明けてまもなく、F子にとってはさらに都合の悪い隠し事が明るみに出てしまった。
――結婚したての30代の男性教師が英文法の受け持ちだったが、その教師が盛んにラブレターをよこすのだと言って、F子は2年もの間ずっと周囲の友人達に、困ったわ、困ったわ、とこぼし続けていた。
ところが、年明けの職員会議にその男性教師が一つの問題を提起し、その証拠として十数通の手紙を皆に披露した。差出人のサインはすべて「F子」だった。
「すぐにこういうものは終わるだろうと思っていまして、最初は放っておいたんですが、こんなにたまってくると、やはり何かしらの指導が必要なんじゃないかと、はい、考えたわけです」
教師達は回ってきた手紙に目を通し、所狭しと踊る少女らしからぬ熱烈な文言に絶句し た。会議後、好奇心を募らせた一人の女性教師が生徒会長を呼び出して、大量のラブレターを男性教師に送りつけたF子とはどういう生徒なのか、と尋ねた。