【前回の記事を読む】「よかったら一緒に行かない?」——明るい茶髪にぱっちりとした目の彼女。馴れ馴れしく距離が近いため苦手だったのだが…

プロローグ

その週の金曜日、前園さんと待ち合わせをした僕は、就活セミナーが開かれる教室に足を運んだ。結構な学生が参加するようで、すぐに教室は人で埋まった。この大学には就職活動支援課という部署があるらしい。まったく知らなかったが、そこの職員が登壇し、簡単な挨拶をした後、セミナーが始まった。講演者はその道では有名な外部講師のようだ。

「いいですか、皆さん。就職活動というのは、非常に公平なものです。スタートラインが同じなわけですから。しかし、走り出すタイミングはランナーによります。だから、皆さんには少しでも早く走り出しを――」

就職活動のスケジュールから、選考の仕方、選考基準、面接やエントリーシートなどの選考手段、さらには業界や企業分析の仕方まで、一通り解説してくれるセミナーのようだ。

チラシに『これさえ知れれば大丈夫! 就活の極意』と記載されていただけあって、一時間半という時間を有効に活用できたセミナーだった。ただ、大事な部分で隣から前園さんがひそひそと話しかけてくるのは嫌気がさしたが。

セミナー後に前園さんとカフェテリアに向かった。なぜかこの大学のカフェテリアはやたら凝っていて、ラテアートのサービスが人気だ。大学はそれを前面に押し出しているが、それは大学のPR活動にはなるが、優秀な学生を増やす手段にはなり得ない。なぜそんなところに力を注いでいるのかは謎だ。

僕はアイスコーヒーを、前園さんはカフェラテを注文し、向かい合わせに座る。

「セミナー、どうだった?」

「うん、楽しかったよ。参考になった。誘ってくれてありがとうね」

いたって当たり障りのない発言をしたのに、前園さんはパッと明るい表情を見せると、「いえいえ」と言った。

「優くんは、もう業界決めた?」

「いや、全然。やりたいことなくてさ」