「そうなんだ! たしかに、優くんってあんまり物事に関心なさそうだもんね」
こういう無神経なところが苦手だ。的を得ているから否定はできないのだが。
「前園さんは、もう業界決めてるの?」
「そうだなあ。私は銀行がいいかな」
むせそうになって、慌ててアイスコーヒーに刺さったストローから口を離す。銀行といったか。この派手な見た目からはまったく想像できない。勝手にブライダルとか、そういう華やかなものに興味があるのだと思っていた。
「そうなんだ。いいね」
もちろん目の前の女と人種の違う僕は、思ったことをストレートには言わない。言っていいことと悪いことの分別はついている。
「でもさ、私に合ってるのかわからなくて。やっぱり自己分析してみた方がいいのかな?」
「自己分析?」
「そう、自己分析。さっきのセミナーでも言ってたじゃん。今の自分を知るために、過去の実体験から嬉しかったことや悲しかったことを抽出して、その感情の原因を分析することで、自分の性格や考え方がわかるってやつ」
たしかにそんな話もあったな。自分の性格や考え方なんて、自分がわからなくてどうすると思って、あまり真剣に聞いていなかった。
「私、自分で言うのも変な話だけど、実はあんまりお堅い銀行って合わない気がするんだよね」
実は、と前置きをするまでもなく、みんなそう思っているだろうな。もちろん、分別があるので、あえて言わないが。
「優くんも一度やってみなよ。もしかしたら自分のやりたいこと、見つかるかもよ!」
「そうだね。帰ったらやってみる」
前園さんは、また嬉しそうに「うん!」と頷いた。
そうとはいっても、実際に自己分析なんてどうすればいいかわからない。大学からの帰り道、自己分析の仕方を調べてみることにした。