【前回の記事を読む】「――やっぱり、なにかあるんだね」「大丈夫。訊かないからさ。」僕は顔に出やすいタイプだった
第三章
遥香の居場所を探そうと決意した僕が最初に取った行動は、当時のクラスメイトを当たることだ。
僕と遥香の関係を知る者は誰一人としていないため、簡単に口を開いてくれるものと思っていたが、彼らの中に、そもそもなぜ僕が三年以上経って、当時交流のなかったクラスメイトを探しているのだろうという疑問が生じるのは当然の理だ。
僕らの関係性を晒さずに、それとなく彼らから遥香の情報を引き出すには、それ相当の理由が必要だと気づき、適当な理由を探した。高校時代の荷物の整理をしていたら、彼女のものが混ざって出てきた。大切そうなものだから、できるなら会って返したい。こんなものでいいだろう。
当時のクラスメイトで早川千冬(はやかわちふゆ)という女子生徒がいた。大人しく友達が多くない遥香にとって、数少ない友人だったはずだ。遥香も彼女の話をよくしていた。早川なら遥香のことを一番よく知っているだろう。
それだけに、早川が僕らの関係を知っている可能性は十分にある。慎重に行動しなくては。だが、幸いにも彼女に連絡を取ると、交際していたことは知らなかったようだ。
[野上くん、久しぶりだね。遥香のことか、実は私も会ってないんだよね。遥香、あの後いろいろあったみたいでさ。私もほとんど話せなかったんだ。]
早川から送られてきたメッセージの内容に深く知りたいと思った僕は、早川に直接会えないかと打診した。彼女は今、僕と同じように東京の大学に通っているらしく、会う日程はすぐに設けられた。
「あ、野上くん? だよね? なんか雰囲気変わったね」
メッセージのやり取りをしてから二日後の昼、待ち合わせをした駅前で待っていると、花柄のワンピースを着たスタイルのいい女性が声をかけてきた。
茶色く長い髪にはウェーブが巻かれており、まさに女子大生といった風貌だ。高校から大学へ進学すると、縛る校則がなくなり、外の環境を知ることで、垢抜ける人間が大半だ。
早川もその一人で高校時代は地味な印象を持っていたが、ここまで変わるとは。対して僕は高校時代と比べれば、長い前髪を切らずにいる。大学に入ってからの方が明らかに地味な人間に成り下がっている。早川の発言も頷ける。
「急に呼び出してごめんね」
「全然! 卒業式以来だよね? 本当久しぶり。野上くんもこっち来てたんだね」
こっちとは、東京のことだ。早川は完全に東京の女と化している。生まれも育ちも東京です、と言われても、納得できるレベルに東京人だ。たしか前園さんがそのタイプだったはずだ。早川と前園さんを頭の中で並べる。うん、なんの違和感もない。
とりあえずランチを、ということで二人で適当な店に入る。夜は居酒屋をやっているのだろう。和風な店内には所狭しと日本酒が並んでいる。ランチのメニューは唐揚げやチキン南蛮など、定食がメインだ。他の店とラインナップは変わらないが、価格が安いので学生の財布にはありがたい。
「それで、遥香の居場所を知りたいんだよね?」
注文後、早川の方から口を開いた。
「そう。どこでなにをしているのかなと思って。なんで僕の荷物から、名前のイニシャルが入ったハンカチが出てきたのかは不明なんだけど」
さらっとついた嘘に、早川は特に気にも留めていないようだった。
「うーん、実は私も知らないんだよね。ほら、遥香ってもともと貧血持ちで、あんまり身体強くなかったじゃん? 入院してから結局私も会えなくて」