1 炎症メディエーターは侵害受容体に作用して末梢性感作を起こして侵害感覚を増強させ侵害感覚を強めている。炎症期の初期段階では破壊された体組織の分解と吸収が行われる。さらに残存している正常組織も再構築のために部分的に破壊される可能性もある。損傷された体組織の破壊を促進しているという観点からは、炎症メディエーターもまた一種の侵害物質といえなくもない。炎症の初期段階で損傷体組織のさらなる破壊が行われるのは、災害現場で壊れかけた建物を人為的に破壊をして修復活動に入るのと同じである。

2 「発熱」「局所発熱」と書かれたりするが、厳密には誤りである。炎症部位では熱は産生されず、体温以上になることはない。特に四肢の温度はふつう体温よりも数度〜10度以上も低いので、温度が体温に近づくと「熱が出た」ような感じがするのである。

3 炎症による長引く侵害刺激によって、神経系が痛みに敏感となり、同じ刺激でも強く感じられたり(痛覚過敏)、ふつうは痛みとは感じられない刺激が痛みと感じられる(アロディニア)ようになる。痛覚過敏やアロディニアは感覚神経系の受容と伝達システムの変化により起こる。これを感作(sensitization)という。感作という用語は免疫系に起こるアレルギー(免疫過敏現象)のメカニズムにおいても使われており、そちらの方がよく知られているであろう。

4 炎症時には体組織からプロスタグランジンという化学物質がつくられる。ポリモーダル受容器にはプロスタグランジンの受容体が存在しており、プロスタグランジンをとらえると信号強度が強められるしくみである。

5 このことはまた、抗炎症薬を服用しても「痛みが消えない」理由である。感作を抑えるので痛みは「弱まる」が、侵害受容体がつくる活動電位の発生そのものは止められないので、痛みが「止まる」ことはない。ゆえに抗炎症性鎮痛薬は「痛み止め」ではなく、「痛み減らし」と呼ぶ方が適切であろう。

【参考文献】

(3)丸山一男『痛みの考えかた しくみ・何を・どう効かす』第1版、南江堂、2014年

(4)佐和貞治『炎症消退に関わる脂質メディエーター』日集中医誌、2010年、17:269-278

次回更新は7月28日(月)、8時の予定です。

 

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