詐術(さじゅつ)―。

嘘をつくこと。

人は動物と違って嘘をつく。

つきたくてついた嘘と、つきたくなくてついた嘘。

結果的に、どちらも違いはない。

嘘にまみれた人生。そんなものが存在するのか?

嘘の中に真実を見出すことができるなら、嘘にまみれた人生にだって、いくばくかの救いがあるはずだ。

これは、そんな人間の話。

詐術人間の物語―。

1 医学祭

「真琴ぉ、今、なんて言ったの?」

「は?」

「だからぁ、今度の医学祭の出し物! 今、超面倒くさい食べ物系とか言わなかった?」

部長の本郷紗英の発言が、この場にいるみんなの意見だと言いたげな圧を感じる。真琴は分かってはいた。

「紗英先輩の言いたいことは分かります」

フットサル部員が集まる体育館の一角。先ほど練習が終わり、部員全員が脱力感満載のところを狙って、部長の紗英に真琴が提案を持ちかけたのだ。

「でも、先輩。毎年フットサル部は、輪投げや椅子取りゲームのような無難な参加型のゲームばっかりでしょう?」

真琴は紗英の顔をじっと見て言った。紗英は明らかに反対している顔つきだった。