【前回の記事を読む】「悔しいから釣鐘に閉じ込めてやったわ」裏切られた女の情念。その身を蛇に変え、寺は火の海に――

鬼の夜ばなし5 牛若丸 鬼から『虎の巻』を手に入れる
(『義経記』より)

鞍馬の山に幼い頃より天狗に鍛えられし者あり。名を牛若丸という。

ある日天狗の頭、大天狗に「もうわしからお前に授けるものは何もない」と告げられた牛若だったが、殊勝にもこう返した。

「いえ、わたしはまだまだ未熟者。どうか今後も御指南を賜りたく。こんなありさまではまだ何も成し遂げられません」 

――出会った頃は貧弱な小童(こわっぱ)であったが、いつの頃からか、わしに一歩も引かぬ術を会得した。ここまでになるとは思いもよらぬことであった。残るはあれのみ。

大天狗は感慨深げな目を向ける。

「牛若よ、後は兵法の極意『虎の巻』を手に入れるのみ」

「兵法の極意『虎の巻』でございますか。そんなものがこの世にあるのでございますか」

「あったのじゃ。しかもこの山に。しかし、ある日こつぜんと消え失せた」

大天狗は重ねて言った。

「それを手に入れるには、冥界のそなたの父上を訪ねるしかない。あのお方こそがその在処をご存じだ。ただし、よいか。それはたやすいことではない」

「わかりました。参ります。何があってもその『虎の巻』とやらを手に入れてみせましょう」